この本で、筆者は、脳内科医、発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家として、数多くの脳の画像診断から得られた医学的知見を基にして、脳の特性や機能などについて解説しています。それを踏まえ、仕事こそ定年はあっても、自分の人生に定年はないとして、人生の後半をより良く生きるための、人生の後半における重要な脳の使い方について解説しています。そして、脳を磨き続ければ、若々しさを保って認知症予防にもなり、最後の最後まで自分を楽しみぬくことができると述べています。
筆者の加藤俊徳さんは、脳内科医、医学博士、加藤プラチナクリニック院長で、株式会社「脳の学校」代表、昭和大学客員教授といった経歴をお持ちです。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家、脳番地トレーニングの提唱者ということで、著書には、「脳の強化書」(あさ出版)、「記憶力の鍛え方」(宝島社)、「部屋も頭もスッキリする!片づけ脳」(自由国民社)、「脳とココロのしくみ入門」(朝日新聞出版)、「ADHDコンプレックスのための“脳番地トレーニング”」(大和出版)、「大人の発達障害」(白秋社)など多数あります。
この本は、次のとおり、序章及び6章で構成されています。
- 序章 定年後の成功のプロファイルを作る
- 第1章 信じる力
- 第2章 疑う力
- 第3章 選ぶ力
- 第4章 祈る力
- 第5章 愛する力
- 第6章 定年後を生きる力
この本の前半で、筆者は、「定年後の成功のプロファイルを作る」「信じる力」「疑う力」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 50歳以降に、人生をさらに充実させ、最後まで「いい人生だった」と感じられるようにするために欠かせない行動は、「欲をもつこと」と「欲を選ぶこと」である。脳科学で考えれば、欲は最高の刺激であり、逆に欲のない人はボケていく。
- これまでの人生のアルバムといえる足跡を具体的に振り返ることで、自分という人間がより浮き彫りになる。そして、残したい記憶、残したい人間関係がはっきりし、これからを生きていく力になっていく。
- 予定を書き込む手帳とは別にノートを一冊用意してつねに持ち歩き、その日に気づいたこと、楽しかったこと、発見などを書くようにする。そこに書かれている記憶に残った経験は、自分が何かを信じたり疑ったり、愛したりした結果そのものである。
- 現役時代は精力的に働いていた人が、定年後、家にこもって怠惰な生活を送ると、脳は一気に老け込み、認知症へのリスクを高めることになる。働かくなった分の脳を違う形で動かす必要がある。
- 何かを信じて毎日それを続けることは、人生の後半を迎える50歳以降の人に特に勧めたい習慣である。脳の成長のピークは30代といわれ、「何もしなければ」そのまま下降線をたどっていく。
- 悩んでも、迷っても、失敗しても、自分と自分の脳を信じられれば、人はどこまでも成長できると考える。挫折だらけの人生と捉えるのか、試練に満ちた豊かな人生と捉えるのか、それは自分を信じられるかどうかに、すべてかかっている。
- 人や宗教、団体などを信じること自体はいいとしても、比べる対象をもたずに、限られた情報のなかだけで信じてしまうのは、人生を狂わす大きな危険性をはらんでいる。それにすがったり信じたくなるような場合には、必ず自分の脳に良くも悪くも原因がある。
- 最大限事実関係を整理し今すべき一点に絞ることで、脳は余計な労力を使う必要がなくなり冷静で高い思考力を発揮する。優柔不断、決断力がない、悩みやすいという人は、既に事実が明らかになっていることが見えておらず無駄に足を取られている場合がほとんどである。
- 脳の聞く力とは、耳から聞いたものを自分の脳にためて理解し、それを思考やイメージをする脳のほかの部分に回すことができる力である。これは、放置していれば加齢とともに衰えていく部分でもある。
- 信じて騙される人は、まず視覚や聴覚からの情報収集力を磨く必要がある。きちんと正しい情報を集められなければ適切な判断が下せないのは当然のことである。
この本の中盤で、筆者は、「選ぶ力」「祈る力」「愛する力」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 情報の濁流にのみ込まれないようにするには、必要なものを必要なだけ取り入れる技術が不可欠である。脳は本来、受動的で楽な回路を好む性質があり、そういった脳の使い方に慣れるとなかなか抜け出すことができない。
- 言葉を読み頭の中でイメージをふくらませていく読書は、それ自体脳トレといえるが、さらに一歩踏み込んで自分の「実践」までもっていくと、記憶力が格段に鍛えられる。頭に蓄えた知識を、体でアウトプットさせるひと手間が、知識をよりリアルな体験に変えてくれる。
- 今の時代はインターネットの情報やSNSで他人が見えやすいので、人をブレさせる要素がたくさんある。科学者が見出す自然の法則のように、絶対に自分のなかで譲ってはいけないものを持ち、それに照らし合わせるクセをつければ自ずと自分の中に一貫した芯が作られる。
- 時間を選ぶ力を鍛える脳トレとして推奨しているのは、朝1日の予定を書きだすこと。頭の中でぼんやりと目標を決めるよりも、紙に書いたほうが、指令として脳に明確に届き、実行されていないと脳が違和感を抱いてくれる。
- 1日の予定表を作ることは、引退をした定年後の生活にも大いに役立てることができる。少し気を抜くとけじめのないだらけた生活に陥りがちである。何をするのか時間を区切って決めておくことで、記憶力を高め、つねに脳の働きを意識しながら行動することができる。
- 誰かの幸せを願うとき、脳内ではさまざまなことが起こっている。その人を思う浮かべる行為で、視覚系の記憶力が刺激される。記憶を呼び起こしながら、それに付随する感情も喚起され、脳のあらゆる部分が活性化されていく。
- 祈りを口に出して言えば、両脳を覚醒させて立派な脳トレになる。口を動かすだけで脳の運動系脳番地は左脳にも右脳にもあり、運動系の中でも口のエリアは大きな割合を占めるため祈りを声に出しながら周辺の脳も活性化させることができる。
- 人を呪うということは、その先に発展性がない。ひとつの事実を無理にねじ曲げることは偶然かなうかもしれないが、それをなしえたところで、その後物事が好転していくことは決してない。
- 愛とは、目に見えないものの究極の形だと思う。人間は言葉や数字、音、形あるものを認識しやすい一方、あやふやな存在を捉えることが非常に苦手である。「目には見えないけれど、そこのあると信じる力」こそが、脳が成長する力を引き出すである。
この本の後半で、筆者は、「定年後を生きる力」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 50代になるとその居場所に甘んじやすくなる。しかし人生の全体で考えればまだ道半分。この頃に新たな生き方に挑めるかどうかが、その後の人生の命運を握っている。新たな挑戦の結果はやってみるまで分からないが、脳の成長にとってプラスになることは間違いない。
- 例えば家事を「自分の仕事ではない」「柄じゃない」などと決めつけて遠ざけている人は多くいる。この決めつけことそが脳の成長を阻む最大のネガティブ因子といえる。やらないと決めつけて敬遠していると、その部分の脳は手付かずのままとなり、それ以上成長しない。
- 新たな挑戦をしたいけど何をしたらよいか分からないと悩んでいる人は、とりあえず小さなことから行動してみるべきだ。手を動かし、足を動かしているうちに脳内では新たな道がつくられていく。そのとき気持ち良い感覚がするはずであり、これで滑り出しは完了である。
- 老後を生きる上で気をつけたいのが、「孤独」である。社会的な孤立は、アルツハイマー型認知症の発症リスクのひとつとして数えられている。ひとりでいれば、脳に新たな情報が入らず、思考力が低下して、脳機能そのものが下降線をたどっていくことになる。
- 60歳といっても人生百年時代だと考えれば、まだまだ若輩者である。広い世界を見渡せば自分ができることよりも、できないことの方が多くあふれている。自分は世の中のことをまだ何も知らない人間だという初心で人生の第2ステージに飛び込んでいく覚悟が必要である。
- 高齢者が増え、年金がいつから受け取れるかも分からないこの時代、システムや企業側が変わっていくことばかりを願うのではなく、必要とされる人となるために、自らの価値を高めていく努力が、中高年に求められている。
- 周囲に人が集まってくる魅力的な大人でいるためには、「自分が何をしてもらえるのか」の考えを捨てて、「自分が何をしてあげられるのか」の考え方にスイッチすることが必要である。実際を相手を喜ばせながらも、そのプラスは一周して自分のもとに必ず舞い戻る。
- 人生は記憶の積み重ねと言い換えられる。人生がソフトウェアとしたらそれを動かす脳はハードウェアである。ハードウェアの動きを良くするのも悪くするのも、経験次第であり、脳にとって喜ばしい経験を積み重ねることで脳機能は向上し、若々しさを保つことができる。
- 中高年の認知症の対策としての3つの習慣とは、1️⃣人とのコミュニケーションをとる、2️⃣新しいことにチャレンジする、3️⃣手足を動かす。逆に、人と話さず、毎日決まりきった生活パターンを送り、家からあまり出なければ、認知症への直線コースをたどっているといえる。