この本では、少子高齢化と人口減少を要因として、避けようがない変化が、社会保障・税金・雇用の各方面で起こっており、これに対応するための従来の常識を見直し「新しい生き方・お金の常識」を指南しております。
具体的には、近年の日本企業が、老後まで社員の面倒をみるのではなく独り立ちを視点する方向へ舵を取っている動向を受け、定年後は雇われずに、好きな仕事をして稼ぐ、そのような高齢化社会に対応した「定年後フリーランス」(これを筆者は「令和フリーランス」と名付けています。)の生き方を勧めています。
老後の不安を解決するために、これからは「令和フリーランス」という選択肢を目指してほしいとして、それに必須の「おもしろがり力・巻き込み力・助けれられ力」を伝授するというものです。
筆者の田中靖浩さんは、外資系コンサルティング会社などを経て公認会計士として独立開業され、コンサルティング、執筆、講師といった堅めの仕事から、 落語家・講談師との公演など柔らかい仕事まで幅広く活動されている方です。
また、「小さい商売人の応援団」を自認しており、フリーランスの応援・育成を目的としたフリーランス塾を立ち上げ、塾長をつとめているそうです。
著書に「会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカ――500年の物語」(日本経済新聞出版)、「会計と経営の七〇〇年史 ――五つの発明による興奮と狂乱」(ちくま新書)、「はたらくみんなの会計力養成講座」(かんき出版)などがあります。
この本は、次の3章で構成されています。
- 第1章 ただの人にならない「定年後」のすすめ
- 第2章 現役世代のための「フリーランス思考」のすすめ
- 第3章 定年後は「助けられ力」がものを言う
この本の前半で、筆者は、「ただの人にならない「定年後」のすすめ」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 雇ってもらえなくても、自分で働く選択肢を持つ。それだけで気分が楽になる。定年後「働こうと思えば働ける」自分になるべく努力をすることで経済的にも精神的にも余裕が出るはずである。
- 会社を辞めた瞬間、会社の看板と役職を失って生身の人間に戻る。その上げ底なくなったとき、自分自身の能力や人間的魅力がなければ周りの人と新たな関係を築くことができない。フリーランスを目指すなら、会社にいるうちから世界を広げて「お楽しみ豊富」な人間になっておこう。
- 自分はどんな資格をもっているか、どんな仕事をしてきたか、などを書き連ねた名刺からは、自らを声高に叫ぶ「自己中心的」なニオイが漂う。受け取る相手の立場に立って「また会いたいな」と思えってもらえる内容を考えよう。
- 偏差値教育と企業組織の生んだ「Ⅾモードエリート(Ⅾは不足・欠乏を意味するDeficitの頭文字。Ⅾモードは生活のため義務で働くということ。)」は与えられた課題の解決方法を見つけるのは優れているが、混沌とした状態で何が問題かを見つけるのはうまくない。
- 年長者の話には自慢、あるべき論の押し付け、説教が多い。成功した年長者ほどその傾向が強い。世間ではこれを老害と呼んでいるようだが、自慢と説教は会社で嫌われるだけでなく、転職や定年後フリーランス化を阻む壁になる。
- 人は自分の思った通りに動いてくれない。年長者になったら「思い通りにならないと不機嫌」になるのではなく、「思い通りにならない」ことを歓迎しよう。このような「風流の精神」を持つことは定年後フリーランスにとって必須の条件である。これを持たないと年下の人とフラットに楽しく付き合えない。
この本の中盤で、筆者は、「現役世代のための「フリーランス思考」のすすめ」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 他人と良いコミュニケーションを取るためには、愚痴と悪口は控えめにした方が良い。私は、誰かと会ったとき、愚痴と悪口は「総会話時間の20%以下」にするという自主規制「20%ルール」を課している。経験上、それくらいに止めておかないと具合が悪い。
- 自分のことを高く評価しすぎると、傲慢になってしまう。一方で、低く評価すると卑屈になる。その傲慢と卑屈のちょうど真ん中に自信がある。私たちは自分を正しく評して自信を持たねばならない。
- 「第1就活(=俗にいう就活)」の場合、学生は仕事についてあらゆることを「学ぶ」ことになるが、「第2就活(=定年後の仕事を考える就活)」サラリーマンは、「捨てる」ことと「学ぶ」ことの両方が必要である。まず最初に捨てるべきサラリーマン時代のクセは「階級」への意識である。
- 勉強会やセミナーの雰囲気をつくる上で一番重要なのは、講師や会場ではなく参加者である。参加者の雰囲気が良ければ講師は必ず乗ってくる。盛り上げたければ良き参加者を集め、良き場所の雰囲気を提供すること―これができる人のことを敬意を込めて「コミュニティ・メーカー」と呼んでいる。
- 3回来てくれるリピーターづくりに必要な力のことを「巻き込み力」と呼んでいる。既存の商品・サービスの魅力を高めるだけでなく、次々と新しい商品・サービスを産み出す展開力がないとお客さんを巻き込むことができない。
- ボランティア活動では、指揮命令系統がキッチリして目的が明確な組織ではあり得ない混乱、騒動などが起こる。そこでは権威に基づく命令を発することができないゆえ、「共感に基づく柔らかなリーダーシップ」でしか相手を動かすことができない。これは軍隊的気質が強い人にとってすばらしい経験になる。
- 「作品カタログ」をつくることが第2就活の重量な課題である。これには、勉強会・イベントの開催、講師、書評・エッセーなどの文章、写真などの活動をしっかり記録し、フリーランスとして仕事デビューする時にネットで公開しよう。それはあなたの「人となり」を示す大切な財産であり、21世紀の履歴書といえる存在である。
この本の後半で、筆者は、「定年後は「助けられ力」がものを言う」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 定年を迎えて会社を辞めること、それに備えて貯金すること、定年後も働くこと、そして健康に生きること。これらを「点」でとらえず、すべてをつないだ「線」として見ていく必要がある。それはすなわち「正しく衰える方法を考える」ことである。
- 50歳を過ぎたら「下り坂のプロセスを歩んでいる」ことを自覚しよう。サラリーマンからフリーランスへの転身を目指す場合、大きな関門がこの「下り坂への切り替え」がうまくできるかどうかであり、何が必要かと言えば「年下の人間との接し方」である。
- 「尊敬される年長者」は教え方が上手で、高圧的に押し付けず、また、むやみやたらに教えない。「下り坂」に入ったら「聞かれたら教える=聞かれるまでは我慢」を心がけよう。
- 年下とうまくコミュニケーションが取れない年長者は「知らない」と正直に言うことが苦手である。年下に「そんなことも知らないのですか?」と指摘されることを恥だと思っている。その挙げ句に「知ったかぶり」をしたり、部下の仕事について「手柄だけ横取り」して嫌われる。
- 「弱いところ・苦手なところを誰かに助けてもらう力」が「助けられ力」である。サラリーマンからフリーランスへ軽やかな変身を遂げた方には「助けられ力」が高い人が多い。一方でうまくいかない人には「抱え込んで自滅」するパターンが目立つ。