はじめに
高齢期の手続について調べている方の中には、専門職から「今回は委任状があれば大丈夫ですよ」「この手続なら、委任状で対応できます」と説明を受けた経験がある方もいるかもしれません。
専門職からそう言われると、「それなら安心だ」「とりあえず委任状を用意すれば足りるのだろう」と受け止める方も多いかもしれません。
確かに、委任状で対応できる手続は少なくありません。ただ、その言葉をどう受け取り、どこまでを想定しているのかによって、後々の安心感には差が出ることがあります。
このコラムでは、「委任状があれば大丈夫」と言われたときに、少し立ち止まって整理しておきたい点を、生活の場面に即して考えてみたいと思います。
(※)このコラムで使っている「日常サポート契約」という言葉は、一般に任意代理契約や事務委任契約、見守り契約などと呼ばれている仕組みを、分かりやすくまとめた表現です。

委任状で対応できる場面は、確かにある
委任状は、本人が第三者に対して「この行為を任せます」と示す書面です。
役所での申請や書類の提出、一定の契約手続など、本人が判断能力を保っている前提であれば、委任状によって代理対応が可能な場面は多くあります。
単発の手続や、内容がはっきりしている場面では、委任状はとても有効な手段です。
その意味で、「委任状で足ります」という説明自体が、誤りというわけではありません。

「委任状で足りる」と「委任状ですべて足りる」は違う
注意したいのは、「今回の手続には委任状で足りる」という説明が、いつの間にか「これから先も、委任状があれば大丈夫」と受け取られてしまう点です。
生活の中では、手続は一度きりで終わらないこともあります。入院や施設入居、契約の見直しなど、状況が変わるたびに説明や判断が必要になる場面が、続くことも少なくありません。
委任状は、あらかじめ決めた行為について、本人が第三者に任せる意思を示す書面です。そのため、あらかじめ想定した行為については有効に機能しますが、その都度の判断や説明を、まとめて引き受ける仕組みではありません。

日常サポート契約で「できること」
日常サポート契約(任意代理契約・事務委任契約など)は、委任状とは異なり、日常生活に伴う事務的な支援を整理するための契約です。
具体的には、生活の中で繰り返し生じやすい事務的な負担について、あらかじめ範囲を整理したうえで任せることができます。
たとえば、次のような場面です。
- 役所や病院、施設との連絡対応
- 書類の提出や手続への付き添い
- 契約に伴う事務の整理
こうした点を、「今の生活を落ち着いて続けるための支え」として、あらかじめ整理しておくことができる点が、この契約の特徴です。

日常サポート契約で「できないこと」
一方で、日常サポート契約には、はっきりとした限界もあります。
医療行為に関する同意や、財産を処分・管理する判断、ご本人の意思を代替するような決断は、原則として、日常サポート契約の範囲外です。
これは契約の工夫次第という問題ではありません。法令上、本人の判断能力を前提としているためです。
日常サポート契約は、判断そのものを引き受ける仕組みではなく、判断ができる状態の生活を支えるための契約だと整理すると、位置づけが分かりやすくなります。

「できないこと」があるから、整理しやすい
日常サポート契約は、万能な仕組みではありません。ですが、できること・できないことの線引きが明確だからこそ、使いどころを整理しやすい契約でもあります。
一つの契約ですべてを解決しようとすると、かえって分かりにくくなることがあります。
今の生活を支える仕組みと、将来の変化に備える制度は、役割を分けて考える方が、結果的に無理のない準備につながります。

まとめ
日常サポート契約は、できること・できないことがはっきりした契約です。
生活の中で生じる事務的な負担を支える一方で、判断や決断そのものを代替する仕組みではありません。
その線引きを理解したうえで使うことで、「今の生活」を、落ち着いて支える手段になります。万能さを求めるのではなく、使いどころを知ることが大切です。
行政書士ストック法務事務所は、川崎くらし安心パートナーズの一員として、あなたの不安を、安心に変えるサポートに取り組んでいます。


