この本は、一般社団法人「定年後研究所」所長である筆者が、改正高齢者雇用安定法(「70歳までの活躍の場確保法」)の施行、そしてポストコロナ時代到来を受け、従来とは違う定年後の自走人生を指南するというものです。サラリーマンの「定年」を前向きに捉え直し、50代からの準備、自分を生かすポイントなどをケーススタディも交えながら説いています。
筆者の得丸英司さんは、大学卒業後、日本生命保険相互会社に入社し、25年にわたり、法人・個人分野のFPコンサルティング部門に従事しました。日本FP協会常務理事、慶應義塾大学大学院講師などを歴任し、2018年、一般社団法人定年後研究所の初代所長に就任されました。定年後研究所においては、「人生100年・生涯現役時代」の到来を背景に、日本で初めての「50代以上の中高年社員」に特化した定年後人生の準備支援機関として、さまざまな角度から定年後の準備・生き方を提案・発信されました。
この本は、次の5章で構成されています。
- 1章 もはや「定年」はリタイアではない
- 2章 定年3.0―50歳からの意識改革
- 3章 「自分を知る」―自走人生の準備はここから始まる
- 4章 自分だけの「定年後」をつくる―先駆者たちに学ぶヒント
- 5章 「自走人生」に備える―50代からのマネープラン
この本の前半で、筆者は、「もはや「定年」はリタイアではない」「定年3.0―50歳からの意識改革」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- これまでの教育→仕事→老後という3ステージは、人生100年時代では、各ステージを孤立させるのではなく、常に柔軟に行き来できるような人生設計をすすめている。いわば、一生勉強であり、仕事であり、余暇ライフ。
- 現役時代は仕事に没頭し、老後のことは考えないと考える人もいる。しかし、会社人生に匹敵するような長さの定年後が待っているかもしれない今となっては、定年後の人生についてあらかじめ考え、準備しておくことは大切である。
- 定年後の人生に頼れる存在はいない。誰かに導かれるのではなく、自分自身の足で走っていく「自走人生」を実践するには、そのための助走期間が必要である。50代で一度立ち止まり、これまでの来し方を振り返るとともに、定年後のライフデザインをじっくり描くことで、定年後の人生にポジティブに向き合える。
- 定年後の居心地のよい場所というのは、何も趣味に限らない。趣味と名の付くものではなくても「自分のできることを生かせる道」が見つかればいいのである。たとえ無趣味を自任する人でも40年以上にわたって培ってきたもの、つまり仕事のスキルでも活用できる。
- 夫婦水入らず、独りの時間もかけがえのない、大切な時間である。しかし、自分をより輝かせ、新たな生きがいややりがいを見つけるためには、外の世界に触れることも大事である。そして、その場所は案外近くにある。
この本の中盤で、筆者は、「「自分を知る」―自走人生の準備はここから始まる」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 定年の文字が意識されるようになる50代になると、どこかあきらめの気持ちを抱いたり、投げやりになって働くことへのモチベーションがどうしても低下していく。そして、新しい仕事にチャレンジしようとか、もっと自分を高めようといった気持ちが薄れ、現状に甘んじるようになる50代社員が増えている。これを「50代シンドローム」と呼んでいる。
- 何かにつけて「もう」というフレーズが頭に浮かんだら、それは心の歩みが止まってしまった状態、「守りのモード」に入った状態である。そうなると、自ら進んで困難な仕事を引き受けたり、次なるチャレンジのために、学び直そうという意欲も減退してしまう。
- 今の50代は人生の折り返しで、その後の人生も相当に長い。ここで錆びついてしまったら、何十年という残りの人生を錆びたまま過ごさなければならないかもしれない。だからこそ、50代は人生の踏ん張りどころなのである。
- 定年後、フリーランスや社会貢献活動を選択した人には、誰にも縛られず、自分のやりたいことができる大きな魅力がある。特に自分でやりたいことを明確に持っている人は、仕事のモチベーションも高まり、働きがいが生きがいに繋がる。新たなステージでは新しい出会い、発見も待っている。
- 元の会社や肩書きに極力頼らず生きていくためには、「自分が何者で、何がしたいのか」をまず明確にすること、そして、それを周囲に伝え、周知させることが大切である。
- 会社人生を離れ、新たな第二の人生を切り拓いていこうというときに、名刺に元の会社名、ましてや肩書まで入れるのは、違和感を覚えてしまう。まず相手に伝えるべきは「自分が何者で、何がしたいのか」である。それを訴える場面で「元は何者でした」では、現在の自分は伝わらない。
- シニアの再就職や再就労で成功するのは、客観的に自分のことが理解できる人である。それができれば、自分自身の能力や可能性を他人にも分かりやすくアピールできる。シニアの就活には大切な要素である。
この本の後半で、筆者は、「自分だけの「定年後」をつくる―先駆者たちに学ぶヒント」「「自走人生」に備える―50代からのマネープラン」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 副業と言えば、単純に「所得が増える」という「有形資産」形成の側面が強調されがちだが、実は「生産性資産」「活力資産」「変身資産」のような「無形資産」の理想的な形成手段である。定年後の新たな仕事を模索したいと思っている50代の社員には、もし許される環境であれば、副業をおすすめしたい。
- 終身雇用制が崩れた上に、超高齢化社会や働き方改革・非正規雇用者の支援などが求められる昨今、社会人の再チャレンジの手段としてリカレント教育が求められている。リカレント教育を受けるメリットは、学び直しによるスキルのアップデート、専門的なスキルの習得といったことが挙げられる。
- 65歳までは生計のための就労、その後85歳くらいまでは生きがいのための就労に従事するモデルが理想である。65歳からは体力や能力に合わせて、仕事量をダウンサイジングしていくのである。このようにして生涯現役で活躍することを推奨する。
- 自分の思い描く老後の生き方があり、だからこれだけお金が必要になる。そして、必要なお金がどのくらいなのかが分かれば、その必要なお金をどのように作っていくべきか自ずとみ見えてくる。このような「逆算力を身につける」ことが大切である。
- お金に関する現在の自分の状況の把握、そして将来の予測。この二つを「見える化」するだけで、「いつ、どうなる」という今現在から老後に至るマネー状況が見えてくる。そこに「どう暮らしていきたいか」を加味した上で、「では、いつ、何をしなければならないか」というマネープランも自ずと見えてくるはずである。