この本は、定年を境に引き起こされる男性の「深刻な問題」に焦点をあて、多くの実例をもとに、定年者が直面するリアルな現実を知ってもらうとともに、定年前にできること、心がけたいことを、筆者がアドバイスするというものです。
筆者は、定年を境に多くの人は突然の環境変化に戸惑い、人によってはうつや認知症のような病気を引き起こしたり、やたらと感情的になったり、暴言や奇行の目立ったりすることが多くなりやすく、家庭や社会での深刻な問題になっているのが現実だとしております。
筆者の高田明和さんは、慶應義塾大学医学部・同大学院を出られた医学博士で血液学、生理学、大脳生理学を専門とする脳科学者です。米国、日本で研究・教育に従事され、脳科学、心の病、栄養学、禅などに関する著述活動のほか、マスコミ・講演で心と体の健康に関する幅広い啓蒙活動を行ってきました。
その著書に「「敏感すぎて苦しい」がたちまち解決する本」「HSPとうつ 自己肯定感を取り戻す方法」「HSPと発達障害 空気が読めない人 空気を読みすぎる人」(いずれも廣済堂出版)、「他人と比べずに生きるには」(PHP新書)、「一日10分の坐禅入門」(角川oneテーマ21)、「自己肯定感をとりもどす!」(知的生きかた文庫)などがあります。
この本は、次の6章で構成されています。
- 序章 健康やお金ではない! 定年前から始まっている本当の危機
- 第1章 居場所がない!定年後に待ち受ける「罠」─孤独との上手な向き合い方
- 第2章 現役とは違う!肩書が通用しない現実─承認欲求の上手な手放し方
- 第3章 焦りは禁物!周りと比べるのは無意味─焦燥感の上手な抑え方
- 第4章 家族は迷惑!その言動が定年後に直結する─ストレスとの上手な向き合い方
- 第5章 人生に定年はなし!長い後半戦を視野に入れる─意欲・自己肯定感の高め方
この本の前半で、筆者は、「健康やお金ではない! 定年前から始まっている本当の危機」「居場所がない!定年後に待ち受ける「罠」─孤独との上手な向き合い方」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 年も取ればだんだん身体が動かなくなるし、集中力も続かず、記憶力も衰える。晴耕雨読を実行するのは実際には大変なだけなので、理想化し過ぎない。
- 会社での今の地位は、定年後の立場を保証するわけではない。定年後は「過去の栄光」よりも「今がどうなのか」の方が周りから重視されるものである。
- むやみに人と比べない。自分の価値観の変化は、「隣の芝生は青く見える」ことがほとんどである。下手なことを考えて苦しむくらいなら、ボーっとする時間を設けた方がいい。
- 定年後を見据え、社外では、会社生活でついてしまった「上から目線」を捨てるように努め、年齢・性別・肩書は関係なく気軽に話す・話しかけられる関係性を構築しておく。
- うつ状態やストレスが続けば、定年前から健康に支障をきたしやすい。まずはちょっとした興味のあることから、自分に合うと感じたことを気軽に続けてみる。
- 定年を機に会社でのつながりはなくなるものと考え、そのまま社会とのつながりにもならない現実を知っておくべきである。
- ほとんどの人は、自分の周りに敵わない人がいるものである。勝ち負けを離れることが、ストレスのない人生を送るコツであり、経験を積んだ50代はそのことに気づける時期である。
- 自分の生き方にも時代にも合わない考え方は捨てるべき。自分の考え方を守るのではなく、自分を守る考え方を習得するのが重要である。
- 意欲のない役職定年者への会社の本音は「もう辞めてくれ」。だが、焦燥感にかられている場合ではない。定年退職を迎えるまでの期間より、定年後の人生の方がずっと長いことを考えれば、今からそれに向けた意識改革へシフトすることが得策である。
この本の中盤で、筆者は、「現役とは違う!肩書が通用しない現実─承認欲求の上手な手放し方」「焦りは禁物!周りと比べるのは無意味─焦燥感の上手な抑え方」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 会社での地位は、定年後の自分には関係なくなるもの理解する。定年後に過去の肩書を捨てず、自慢げに経歴を話したり、管理職のように振る舞えば、周囲の反感を買うだけで、尊敬されることはない。
- 定年後、最も深刻なのは「孤独の問題」であり、孤独が暴走の引き金になる。統計的にも暴走老人が決して少なくなく、事件にまで発展しやすいことを理解しておく。
- 再就職でやりたい仕事を選ぶのは必ずしも得策ではない。年齢を考え、体力的に無理がある仕事は避けるべき。体を壊してしまえば、充実した定年後が送れなくなる。
- 同窓会は最初は懐かしくて楽しいが、相手に深入りすると、自分との比較になり、おもしろくなくなる。参加するのであれば、あくまでも軽い付き合いにすべきである。
- 健康の問題に関しては、たとえ豊富な人脈や十分なお金があったとしても、加齢とともに襲い掛かるリスクは高まる。健康に限らず定年後の不安は万人に共通であり、50代の時点での自分を見て「自分だけは大丈夫」と安易に考えない。
- うつ病の治療法の一つの認知療法では、「こうすべき」という考えを止めるように教えている。「べき思想」を止めれば、うつになる可能性が低くなる。
- 栄光や武勇伝は自分で語るべきではない。前例のないことを自ら進んで取り組んで実績をあげ、部下があとに続きやすい環境をつくることで、先駆的なあなたの武勇伝を誰かが語るくらいでいい。
- 意欲を失っている人は、定年後に充実した日々が送れない。お金や出世ではなく、生きがいのために再就職を検討する。
- 特に男性は前頭前野が衰えることで、加齢とともに怒りっぽくなる傾向がある。温和な人でも例外ではない。
この本の後半で、筆者は、「家族は迷惑!その言動が定年後に直結する─ストレスとの上手な向き合い方」「人生に定年はなし!長い後半戦を視野に入れる─意欲・自己肯定感の高め方」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 定年後、妻と同じ生きがいが見つかると思わない方がいい。妻の世界観や人間関係を尊重し、無遠慮に入り込まないところから始めるべきである。
- 妻との時間を大切にすることも大事だが、妻の行動を監視するような言動はとらない。妻との時間を邪魔しないことも大切である。
- 威圧的でネガティブな思考からは、何も生まれない。「ダメ出し」ばかりしていると、結局、自分にマイナスとなって返ってくる。
- 中高年の引きこもりのもっとも多い理由は「退職」による環境変化。決して他人事と思うべきではない。
- 会社でダメ出しばかりしてきた者ほど、定年後は地域や家庭でクレームを出しやすい。存在感を示したいのであれば、地域活動など、人から感謝されることをする方がいい。
- 「自分が損をする方がいい」ぐらいに考えておけば、兄弟の関係は維持しやすい。「何かをしてもらおう」といった身内への下手な期待は、裏切られた感につながるだけである。
- 子どもの引きこもりの問題に親の人生論は通用しない。親である自分が定年を迎え、長い老後を過ごす現実を考え、専門家に遠慮なく相談するべきである。
- ストレスを遠ざけるには、自分が好きなプラスの言葉を口に出して言ってみる。言葉の波動が心の波動と共振することで、心だけでなく脳にもいい影響を与える。
- 定年後、家族や地域の人たちはかっての部下のように忖度してくれない。部下を部下として扱ったり、指示を出したりできるのは定年までのことと自覚しておく。
- 分からないことを自分より年下の人に聞くのことは恥ではない。誰に聞こうかと悩んだりするなら、問題が早く解決する方を優先し、部外者や年少者と積極的にコミュニケーションを図るようにする。
- 会社でも家庭でも厳しく当たるだけではダメ。適宜、褒めるように心がけるだけで、人間関係はみるみるよくなる。褒めるのが苦手な人は、「ありがとう」「助かる」のひと言を会話に添えるだけでいい。
- ものすごくうまくいったことがあっても、時代に合わなかったら意味がない。自分のやり方に固執して定年前から孤立しないためにも、自意識やプライドを上手に手放す。
- バブル世代特有の「根拠のない自信」は上手に捨て去ろう。固執したままだと、自信が崩れたときに自己卑下するようになり、苦しむことになる。
- 日ごろから自分ができることは必ず自分でやるように心がける。それは介護の日が来るのを遅らせることにもつながる。