この本は、古今東西広く世界を見渡せば、還暦を超えてもなおパワフルに活躍している人はたくさんいて、どうすれば「還暦からの底力」を発揮できるのかという答えを明らかにしようと書かれたものです。筆者は、還暦からの底力を発揮するうえでの重要なポイントは、色眼鏡をできるだけ外して、フラットに周囲の物事を見ることと、健康寿命を延ばすことだと述べています。それらを実際に行うには、具体的にどうすればいいのかを読者といっしょに考えて明らかにしていこうというものです。
筆者の出口治明さんは、京都大学法学部卒業後、1972年、日本生命相互会社に入社され、国際業務部長などを経て2000年に退社。その後、ライフネット生命保険株式会社の創業者、APU学長という経歴の実業家・教育者です。
その著書には、「人生を面白くする本物の教養」(幻冬舎新書)、「哲学と宗教全史」(ダイヤモンド社)、「仕事に効く教養としての「世界史」」(祥伝社)、「部下を持ったら必ず読む「任せ方」の教科書」(KADOKAWA)、「教養は児童書で学べ」(光文社新書)、「座右の書「貞観政要」 中国古典に学ぶ「世界最高のリーダー論」」(角川新書)など多数あります。
この本は、次の5章で構成されています。
- 第1章 社会とどう向き合うか
- 第2章 老後の孤独と家族とお金
- 第3章 自分への投資と、学び続けるということ
- 第4章 世界の見方を歴史に学ぶ
- 第5章 持続可能性の高い社会を残すために
この本の前半で、筆者は、「社会とどう向き合うか」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 「敬老の日」を本当に活かしたいのであれば、その趣旨を「多年にわたり社会につくしてきた老人を敬愛し、長寿を祝う」から「高齢者が次の世代を健全に育成するために、何ができるのか」に変更すべきである。
- そもそも働くということは、昔何をやっていたのか、何ができたのかは関係なく、現在の能力と意欲、体力に応じてそれにふさわしい仕事をするかというのが世界の常識である。日本もそういう当たり前の世界を目指すべきである。
- 定年の廃止には一石五鳥のメリットがある。①健康寿命が延びて介護が減る、②医療・年金財政が好転する、③年功序列から業績序列にシフトする、④中高年の労働意欲が高まる、⑤労働力不足の日本で定年を廃止して困る人はいない。
- たくさんの人に会い、たくさんの本を読み、いろいろなところに出かけていって刺激を受ける、つまり「飯・風呂・寝る」の低学歴社会から「人・本・旅」の高学歴社会にへと切り替えなければならない。
- 「60歳を超えたのに、私はまだ何事も成していない」と真面目に悩む人を見かけることがある。でも、人間は「猪八戒」くらいの存在だと考えていれば、そんなことでいちいち気に病むことはないし、60歳は人生100年の折り返し地点と考えれば、もっと楽しくいろいろなことにチャレンジできる。
- 他人に何といわれようと「天知る、地知る、我知る、人知る」で、天も地も見ているし、何より自分が見ているのだから、人に評価されたい気持ちなどは捨てて、自分がいいと思ったことに全力で取り組めばいい。
- 「仕事が生きがい」という考え方も、自分自身をなくしてしまうことにつながりかねない。人の生活の中で労働時間は2割強に過ぎない。物事の中で2割強のウェイトなど、極論すればどうでもいいことである。
この本の中盤で、筆者は、「老後の孤独と家族とお金」「自分への投資と、学び続けるということ社会とどう向き合うか」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 運はアトランダムにやってきて、そこに個人の適応がうまくミートしたときにチャンスが生まれる。何らかのチャンスを得たいと思う人であれば、家にこもっていても仕方がない。どんどん外に、広い世界にでていくしかない。
- これまで所属していたコミュニティを飛び出して、別の世界に足を踏み入れることに躊躇する人は多い。でも、それは合コンに怖気づいているのと一緒である。実際に別の世界に飛び込んでみなければ、異なる世界に属する人との接し方は学べない。
- 世の中で大きな変化が起きているのだから、個人としてもこれまでの経験の蓄積に頼らず、新しい物事を勉強し、チャレンジしていくことが大切になってくる。「人・本・旅」による自己投資が非常に重要で、還暦からのお金の使い方としても適切だと思う。
- 勉強で大切なのは継続である。したがって、自分のやる気を継続させるインセンティブを上手に与え続けることが大切である。勉強のよくできる人は、自分をごまかしてやる気にさせる仕掛けづくりが大変上手である。
- 本を読む意味は単なる知識の獲得にとどまらず、先人の思考のパターンや発想の型を学ぶことにある。料理のレシピとまったく一緒で、先人の思考のプロセスの追体験から始めるのである。
この本の後半で、筆者は、「世界の見方を歴史に学ぶ」「持続可能性の高い社会を残すために」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 人間はそれほど賢くないという人間観こそが保守主義の真髄だと思う。うまくいっている理由はわからないけれど、みんなが満足していてさほど不満がないのならそのままでいいというのが保守主義の基本的な考え方である。
- 脳の構造から考えてみても、脳の全活動の9割以上は無意識の領域である。意識できる部分は1割程度といわれている。つまり、理性は人間の脳みその1割部分によって生み出された幻想なので、やはり理性をあまり信じない方がいいと思う。
- 悲観論、極論、陰謀論で人々を脅すほうが大きな反響が得られるので、そういう本や過度に悲観的な主張をする人が後を絶たない。しかし歴史を振り返れば悲観論は全敗している。これは劇的な科学や技術の進歩を、人間のあまり賢くない脳では想像できなかったからである。
- 議論をする、あるいはコミュニケーションをとるときのベースになるものは、「数字・ファクト・ロジック」である。しかし、残念ながら世の中では根拠なき精神論や、エビデンスではなくエピソードを延々と述べる議論がまかり通っている。
- 「迷ったらやる。迷ったら買う。迷ったら行く」ですぐ行動したほうがいい。行動しなければ世界は一ミリたりとも変わらない。いくつになっても楽しい人生をおくりたかったら、いまの自分が一番若いのだから、いますぐ行動すべきなのである。
- 人生には「喜」「楽」はもちろん「怒」「哀」もあったほうがいい。喜んだり怒ったり、哀しんだり楽しんだりがたくさんあるほうが面白いし、人生は豊かになるはずである。だから喜怒哀楽はプラスマイナスで計算するのではなく、その総量の絶対値でとらえたほうがよいのである。
- 名君・唐の太宗が意思決定の際に大事にしていたのが「銅の鏡」「歴史の鏡」「人の鏡」である。銅の鏡で自分を映し、自分の心身の状態をチェックする。将来は予測できないので歴史の鏡で過去の出来事を学ぶ。人の鏡で部下の直言や諫言を受け入れる。