この本は、家庭や地域に居場所がなく図書館などでただ時間を潰すだけといういわゆる「定年難民」になることなく、定年後の長くかけがいのない大切な時間を心豊かに生きるための色々な提案、助言が書かれています。
これから定年を迎える人、現在定年後の生活を送っている人に、役立つ情報や、毎日が楽しくなるヒントが提供されています。
筆者の保坂隆さんは、精神科の専門医で、がん患者さんとご家族の心のケアを目指す医療活動に長く従事されております。
また、「老いも孤独もなんのその 「ひとり老後」の知恵袋」(明日香出版社)、「精神科医が教える 心が軽くなる「老後の整理術」(PHP研究所)、「人間、60歳からが一番おもしろい!」(三笠書房)、「精神科医が教える 60歳からの人生を楽しむ孤独力」(大和書房)など多数あります。
この本は、次の6章で構成されています。
第1章 こんな人が「定年難民」になりやすい
第2章 定年前後にやっておきたいこと
第3章 生活に「メリハリ」を持つノウハウ
第4章 老後の幸せは人間関係にあり
第5章 お金のことも「ざっくり」考える
第6章 いつまでも「健康な体と頭」の人の共通点
この本の冒頭では、筆者は「これまでの人生で重ねてきた経験や苦労は、これからの毎日を心から楽しみ、幸せに生きるための滑走路だったのかもしれません。
幸せな定年後は、ただ漠然と待っていれば実現するものではないものの、自分から歩み出していけば必ず手に入るものと確信しています」と述べています。
この本の前半で、筆者は「こんな人が「定年難民」になりやすい」「定年前後にやっておきたいこと」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 定年後はどんな一流企業に勤めていた人でも「ただの人」なのに、社会的承認欲求が強くて、それを受け入れることができず、過去の栄光にすがってしまう。
- 過去にしがみついていたり、相手の上に立ってやろうという気持ちを捨てられないでいると、新しい友人はできず、そうなれば待ったなしで、ひとりぼっちの定年難民になる。
- 趣味のサークルや地域活動への参加など、利害関係のないところで自分のスキルを伸ばしたり社会貢献をすれば、自身の存在価値を実感できるし、生きがいにもなる。
- 田舎暮らしを望む人は、煩わしい人間関係を捨て、隠遁生活をしたい願望を持つが、実際には濃密な人間関係を維持しなければ生活はできず、耐えられなくなることも考えられる。
- 日記をつける習慣は、なんとなくダラダラと流れていく時間をメリハリのあるものに変えてくれる。だらしない生活になりがちな定年後を、日記でしっかりと予防してほしい。
この本の中盤で、「生活に「メリハリ」を持つノウハウ」「老後の幸せは人間関係にあり」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 生きがいが見つからずに焦ったり、不安でたまらなくなったりする精神状態を「生きがい症候群」と呼ぶ。定年後は、自分のやりたいことを生きがいとして楽しめればいい。
- 頑固おやじと思われたくなかったら、「いい年をして」という言葉に惑わされないように心がけ、どんなことでもひとまず受け入れてみる柔らかな気持ちになるべきである。
- ボランティア活動は、やりがいや生きがいを強く感じられるため、おすすめできる。それは、善意で人に何かをしてお礼を言われると、それだけでうれしくなるからである。
- 人を惹き付ける話し方のポイントは、会話はキャッチボール、ゆっくりしゃべる、話を否定しない、相手の名前を覚えできるだけ名前を呼ぶ、うなずきや相づちを打つ。
この本の後半で、「お金のことも「ざっくり」考える」「いつまでも「健康な体と頭」の人の共通点」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 退職後のことを悲観しすぎて、定年前からあれこれ細かく考えるのではなく、まずは大まかな経済計画を立てて、実際に定年を迎えたら、一年ごとに見直していく程度でいい。
- 退職金や年金が予想より少なくても、言って増えるものではないので、その額の範囲で暮らせる方法を考えよう。あれこれ工夫をすることで、脳もかなり活性化するはずである。
- 定年前後には、退職金という大金が手に入ることで気が大きくなるから「買い物依存症候群」が発症しやすい。クレジットカードはお金を使う実感が湧きにくく暴走しがちである。
- 「一日あたり〇〇円」は効果的なセールステクニックであり、定年後は惑わされないよう心がけ、それを30倍、360倍することで購買意欲を抑えるようにする。
- かかりつけ医は、個人の生活や家族構成、持病、病歴を把握しやすいのでよきアドバイザーになってくれる。定年前から信頼できる近所の病院を見つけておくことをおすすめする。
- 極端な食事制限によって低栄養状態が続くと、筋肉の量が低下して身体機能が極端に衰え、転倒や骨折をしやすくなって寝たきりになったり、認知症を発症しやすくなる。