この「定年バカ」は、2017年に出版されていますが、当時ベストセラーになっていた楠木新さんの「定年後」(中公新書)などの一般的な定年本に対するアンチテーゼの性格を持つ本です。
著者の主張は、定年本に書かれている「~しなさい」「~しよう」に必要以上に惑わされるのではなく、定年後は自分の好きにすればよいということで、全体がこのトーンで貫かれています。
著者の勢古浩爾さんは1947年生まれの評論家、エッセイストで多くの人生論などを書かれています。
著書に「ビジネス書大バカ事典」(三五館)、「それでも読書はやめられない」 (NHK出版新書)」、「まれに見るバカ」(新書y)、「人に認められなくてもいい」(PHP新書)などがあります。
この本は、全体を通して「たかが定年」という筆者の主張をベースにして書かれています。
数多い定年本を読んで、やらなければいけないことなどの多さが心配になっている人にとって、その心配を解消する助けになってくれる一冊になるかもしれません。
この本は、次の9章で構成されています。
第1章 定年バカに惑わされるな
第2章 お金に焦るバカ
第3章 生きがいバカ
第4章 健康バカ
第5章 社交バカ
第6章 定年不安バカ
第7章 未練バカ
第8章 終活バカ
第9章 人生を全うするだけ
この本の前半で、筆者は、「定年バカに惑わされるな」「お金に焦るバカ」「生きがいバカ」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 無為の人間を下に見ている連中が、有意義なことをしていると言っても、それはその人が好きなことだからである。何もしていない人間が一方的に責められるいわれはない。
- 定年後の生活は自分のできる範囲で生活すればいいのであり、いくら必要か計算しても意味はない。年金しかないのならそれで生活をするしかない。
- まだ見ぬ20年間を先取りしてずっと「充実」させようと思ったり、20年間持続する「生きがい」を考えるのは無意味であり、大変である。
この本の中盤で、筆者は、「健康バカ」「社交バカ」「定年不安バカ」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 平均寿命も健康寿命も、個人が生きていく目安にしてはならないと思う。平均を超えたから得をした、達しなかったら損と考える人がいるなら、それはさもしい考え方である。
- 昔の友人を探して出会い直すことを勧める人がいるが、何十年も音信不通だった昔の亡霊が何で連絡してきたのだ、借金しようとしているのではと警戒されるのが関の山である。
- 「定年本」の書き手はできるだけ多くの人に通用するようなことを書く。そのような「平均的人間」である読者に希望を与えようとすると一般論になるしかない。
この本の後半で、筆者は、「未練バカ」「終活バカ」「人生を全うするだけ」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 尊敬されたいという自我が満たされないと、周囲が見えない強引な自己顕示となる。彼らは、その自我がどれほど噴飯ものの自我に過ぎないかにまったく気づいていない。
- 「定年の達人」がもしいるとしたら、有名無名を問わず、自分で考え、余計な不安などなく、自足して、ふらふらしていない人がすべて「達人」である。
- 60年以上も生きてきた人間が、たかが定年ごときであたふたする必要があるのか。みんなこれまでの幾多の困難に耐え、乗り越えてきたではないか。