この本は、定年で居場所を失い孤独に陥る「定年ぼっち」(定年と独りぼっちをくっ付けた造語)の厳しい実情とともに、それに負けない生き方として、「有意味感(meaningfulness)」を持って人生後半戦をかっこ良く前向きに生きることについて書かれています。
筆者が700人超のインタビューを土台に定年前後の生き方・働き方を分析して書かれただけに、多くの人の生の声が例として示されています。
著者の河合薫さんは、健康社会学者ですが、もともとANAの客室乗務員であり、また、気象予報士としてテレビにも出演されていた方です。
私は、数年前までラジオの文化放送「くにまるジャパン」という番組でコメンテーターをしていた時に毎週聴いていました。
また、「他人をバカにしたがる男たち」(日本経済新聞出版)、「残念な職場」(PHP新書)、「コロナショックと昭和おじさん社会」(日経プレミアシリーズ)など、サラリーマン社会に対する独特の分析をした本を多く書かれています。
この本は、これまでも、会社社会におけるオジサン文化の弊害を厳しく指摘してきた筆者らしく、「定年ぼっち」の辛く苦しい姿などについて、これでもかと書かれています。
「残念なおじさん図鑑」というコラムも5回載せており、例えば、現役だった時の名刺を定年後も会う人に配って過去の自慢話をする人の話などです。
その上で、そのような定年ぼっちに向かっていく生き方を力強く書かれており、定年後の孤独に不安を感じている人にうってつけの一冊だと思います。
この本は、次の5章で構成されています
- 第1章 古戦場巡りで気づく〝ぼっち〟の世界 ~ルーティンの喪失
- 第2章 塩漬けおじさんが定年で失敗する理由 ~定年ぼっちになる人・ならない人
- 第3章 ボッチは定年前から始まっている ~有意味感
- 第4章 死ぬより怖い「ぼっち」の世界 ~アイデンティティの喪失
- 第5章 人生に意味を作る
この本の前半で、筆者は「古戦場巡りで気づく〝ぼっち〟の世界 ~ルーティンの喪失」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- あえて健康社会学的に定年を定義すると「ルーティンが断ち切られる日」と位置付けることができる。自分の意志とは関係なく、ある年齢を境に強制的・一方的に消える。
- 「中高年の星」元大関魁皇は潔く横綱を諦めながらも、粘り強く「相撲」を諦めなかった。同様に「会社での立場」は諦めても、粘り強く「働くこと」を諦めなければいい。
- ルーティンの喪失は、地雷だらけの人生と戦うエネルギーを奪っていく。だが、新しいルーティン作りに励めば厳しさに耐える土台ができる。それができる力を人間は秘めている。
この本の中盤で、筆者は「塩漬けおじさんが定年で失敗する理由 ~定年ぼっちになる人・ならない人」「ボッチは定年前から始まっている ~有意味感」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 忠実に仕事をやってきた人ほど骨の髄まで染み込んだ塩(=会社組織特有の思考回路)を抜くのにてこずる。職場で偉くなればなるほど塩の恩恵を受けアウエー耐性は脆弱化する。
- 脳の老化は得意分野以外から進む習性があるため過去の栄光は最後まで残り続けるという困ったメカニズムも存在する。老化した脳は前頭葉機能が低下し感情コントロールも苦手。
- 10個のうちたった一つの自分にとって大切と判断するものに時間をかけて向き合い、没頭していけば、やがて誇りになり、有意味感は高まっていく。これが9:1の法則である。
この本の後半で、筆者は「死ぬより怖い「ぼっち」の世界 ~アイデンティティの喪失」「人生に意味を作る」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 中年期の危機を成熟した人間への転機にするには、自分磨き=自己アイデンティティに精を出すだけでなく、他者といい関係を作り「関係性に基づくアイデンティティ」の確立が必要。
- 元気になる力を見つけ増やす努力をすれば孤独は自分と向き合う大切な時間となる。特に「積極的な他者関係」は何事にも勝る内的な力であり、豊かな人生の扉を開くパワーになる。
- 「私はもっと進化できる」という確信があれば唯一無二の自分になれる。自分がここに存在する意味=有意味感を実感し「年を取るのも悪くないな」と喪失感と共存できる。希望とは浮かれた中ではなくしんどい中に存在するのだ。