この本は、定年後に対する漠然とした不安を乗り越えるため、定年後の仕事の等身大の姿を知ってもらうということを目的として書かれたものです。
この本では、
- まず、様々な統計データを使って、定年後の仕事の実態を年収、生活費、貯蓄など「15の事実」としてまとめています。
- そして、7人の定年後の就業者の事例を取り上げて、定年後の「小さな仕事」を通じて豊かな暮らしを手に入れている人々の姿について書かれています。
- その上で、少子高齢化が進展していく中、社会が定年後の仕事に対してどう向き合っていくかについての提案がされています。
統計データや定年後の就業者の事例を基にしての提案がなされておりますので、定年を前に漠然とした不安を持つ多くの方に、勇気と指針を与えてくれるのではないかと思いました。
筆者の坂本貴志さんは、厚生労働省や内閣府で勤務された後、三菱総合研究所エコノミストを経て、リクルートワークス研究所研究員・アナリストをされている方です。
マクロ経済分析、労働経済、財政・社会保障を専門にされており、近年は、高齢期の就労 エッセンシャルワーカーの働き方などを研究テーマとされているそうです。著書に「統計で考える働き方の未来」(筑摩書房)があります。
この本は、次の3部で構成されています。
- 第1部 定年後の仕事「15の事実」
- 第2部 「小さな仕事」に確かな意義を感じるまで
- 第3部 「小さな仕事」の積み上げ経済
この本の前半で、筆者は、「定年後の仕事「15の事実」」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 40代や50代で現実の支出水準がこれからも続いていくような感覚を持ち、将来への不安を募らせている人も少なくないが、実際には高齢になると家計支出額が大きく減少するため、高齢期の家計に過度な不安を抱く必要はない。
- 壮年期には世帯で月60万円ほどの額が必要とされるが、定年後は年金に加えて月10万円ほど労働収入があれば家計は十分に回る。
- 定年後の就業者の多くは、直接的に誰かのために働くということを大事にしている傾向がある。歳を重ねた就業者は、自らの経験から、仕事を通じて人や社会に貢献し、彼らを喜ばせ幸福にするという、仕事本来の意義づけ、意味づけを自然に行えるようになっている。
この本の中盤で、筆者は、「「小さな仕事」に確かな意義を感じるまで」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 自身の生活を豊かなものにしたいという考えで必死に働いていた人、自身のキャリアを高めるための競争に日々明け暮れていたような人が、定年後には、第三者の誰かの役に立ちたいと言って仕事をするようになる。
- 多くの組織人にとって組織内で上り詰めていく道のとん挫は避けられない現実として立ちはだかるときが来る。これを転機として、組織内で役職を上げて仕事で高額の報酬を得ることだけがキャリアの目的ではないことを、緩やかに気づいていく。
- 定年後の豊かな仕事として、比較的多くの人が共通して言及していた事項は、概ね①健康的なリズムに資する仕事、②無理のない仕事、③利害関係のない人たちと緩やかにつながる仕事である。
この本の後半で、筆者は、「「小さな仕事」の積み上げ経済」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 仕事から得られる収入の額は、その人がなした仕事による成果に応じて決まるものであって、決してそれがその人自身の価値を決めるものではない。定年後は、高い給与を稼ぐからえらいのだとか、低い給与の仕事はそうではないだとか、そういう競争意識にとらわれる必要はないのではないか。
- 分析を行った「定年後の仕事」を振り返ると、定年後の就業者が従事している仕事は多くが生活に密着した小さな仕事であった。これからの日本の経済社会を見渡せば、地域に根差した仕事であればあるほど、生活に密着した仕事であればあるほど、価値ある仕事になるのではないかと考える。
- 働き手が急速に減少するこれからの日本社会が今後目指すべきは、地域に根差した小さな仕事で働き続けることで、自身の老後の豊かな生活の実現と社会への貢献を無理なく両立できる社会である。