この本は、60歳を過ぎてからの仕事の環境の激変によって生じる不安感と孤独感にどのように向き合っていくか、それは生き方を再起動(リスタート)するということであるとして、そのためのヒントについて書かれています。
サブタイトルには「最高の人生に仕上げる『超絶的』ヒント」、カバーのそでには「本当の人生ここから始まる!」とあり、還暦を迎えた翌年に書かれたこの本に対する筆者の強い思いが分かります。
筆者は、作家で元外務省主任分析官の佐藤優さんです。モスクワ大使館でも長く勤務され、ソ連崩壊時の情報分析での活躍などで有名です。
外務省退職後は、作家として多くの著書を書かれておりますが、本書のような生き方、働き方に関するものも多数あります。
「人生の極意」(扶桑社新書)、「人に強くなる極意」(青春新書)、「修羅場の極意」(中公新書ラクレ)、「組織の掟」(新潮新書)などです。本書は、青春新書の「40代でシフトする働き方の極意」「50代からの人生戦略」から還暦へと続くという位置付けです。
筆者は、ソ連崩壊時にモスクワ大使館で活躍され、北方領土交渉にも尽力されたり、また、背任と偽計業務妨害容疑で逮捕されて、512日間に及ぶ拘置所生活を送ったり、数多くの修羅場をくぐった経験を持ちます。
そのような佐藤優さんが書かれた「定年本」だけに、様々な分野からのエッセンスが盛り込まれていて、とても実践的な内容です。
還暦からの人生のリセットを目指す人にピッタリの本だと思います。
この本は、次の6章で構成されています。
第1章 還暦からの「孤独」と「不安」
第2章 還暦からの人間関係とメンタル
第3章 還暦からの働くことの意味
第4章 還暦からのお金とのつき合い方
第5章 還暦からの学びと教養
第6章 死との向き合い方
この本の前半で、筆者は「還暦からの「孤独」と「不安」」「還暦からの人間関係とメンタル」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 還暦以前までの生き方と価値観を引きずるのではなく、今の自分とその立場や環境をしっかり見すえ、それまでのものを一度リセットして、新たな気持ちと視点で人生を再スタートしよう。
- 60歳以降は、手元のお金が増えないとしても、減るスピードを極力遅くすることはできる。マイナスのミニマム化が現実的な生き方戦略であり、そう考えると気持ちが楽になる。
- 人間関係は、それまでのアソシエーションからコミュニティ(家族、友人、地域住民)の比重が高くなり、意識と行動を切り替えるのに苦労する。
- 還暦前後は家族や家庭、仕事、お金、健康、近親者の死など様々な状況が変化する。追い詰められ「高齢者うつ」になっても、うつ病と認識されず適切な処置がされないことがある。
この本の中盤で、筆者は「還暦からの働くことの意味」「還暦からのお金とのつき合い方」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 高収入を目指さず、仕事を選ばなければ、まだまだ働く場所があるのが今の日本。実際、いろんな場面で高齢者が働く現場が増えている。
- 還暦からの仕事のパターンとして、それまでのキャリアを生かすのではなく、キャリアに関係なく業務委託・非正規雇用として働く、趣味と興味を生かした仕事で働く、ネットを利用して働くというのもある。
- 還暦後は目線を変えて仕事と向き合うことで、かつては感じることのできなかった仕事の楽しみや喜びを味わうことができる。実はそれこそが本当の労働の喜び、仕事の本質かもしれない。
- 退職金の使い方を金融機関に丸投げで相談することは避ける。金融機関は相談者より自分たちの利益が上がることを最優先するため、手数料がたっぷりと乗ったものをすすめられる。
- 20~30代の人が投資で失敗しても、まだ稼ぐ力と時間が残っているから、高い勉強代だったですむ。還暦以降に投資で大きな損失を被ってしまうと、取り返すことはかなり難しい。
この本の後半で、筆者は「還暦からの学びと教養」「死との向き合い方」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 図書館で漫然と新聞を読んだり、文庫本を読んだりしている高齢者グループはあまり前向きな感じがしない。書籍は自分でお金を出して買った方が、元を取らねばと思い気を入れて読む。
- 還暦後、今まで読みそびれてしまった本、例えば世界的な古典に再チャレンジするのはどうか。また学生時代の教科書やノートを読み返すと気持ちが若返り、学習意欲が出たりする。
- 自分の健康状態を勘案して、自分がいつまで働けるか、いつくらいから介護が必要になり、どんなサービスを受けることになりそうかを自分なりに想定しておくべきである。
- 自分はある局面で外務省とケンカしたが、外務省での経験を全面的に否定しているわけではない。自分の前半生を否定する人は、後半の人生も否定することになり、それはさみしいことである。