この本は、これから定年を迎えようとしている人や、既に定年を迎えた人に対して、定年後の年の取り方に気をつけようという観点から、「作法」として、適度に清潔で品ある人にみられるための方法を伝授するという本です。
悲しい定年後を過ごすことにならないよう、自分を律し、先を見据えた生き方を学ぶために必要な助言が数多く書かれております。
著者の林望さんは、作家、書誌学者で、長く大学の教職を勤められ、50歳に時に作家専業となられたとのことです。
著書に、日本エッセイスト・クラブ賞を受賞した「イギリスはおいしい」(文春文庫)、講談社エッセイ賞を受賞した「林望のイギリス観察辞典」(平凡社)、「知性の磨きかた」(PHP新書)、「謹訳 源氏物語」(祥伝社文庫)など多数あります。
この本は、次の6章で構成されています。
第1章 孤立を恐れないと覚悟を決める
第2章 自分の役割を捨てる
第3章 古きものにいまを見つける
第4章 体と心のペースをつかむ
第5章 残すものと捨てておくもの
終章 人生の“店じまい”に向けてなぜ「定年」が不安なのか
この本の前半で、筆者は「孤立を恐れないと覚悟を決める」「自分の役割を捨てる」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 定年後の組織を離れた「個(孤)」の生活の中では、常に自省心とそれに基づく自制心が肝心のなかの肝心で、むしろ遠慮深くおずおずと進んでいくことが大事である。
- 定年後の夫婦は適切な息の間をとりながら個としての生活を確立して初めてお互い敬意を払うことができる。付かず離れずの距離感と互いに独立の個人としての敬意が必要である。
- 定年後何をするにしても、定年前の手柄も役職も名誉もすべて忘れ、一人の人間として、まずはこのまっさらな心の持ち方で、おっとりと暮らすということから始めよう。
- 早期退職する人は、ただ何となく早期に会社を辞めるのではく、現役のうちに、次の時代の「芽」を発見し、育てておくという心がけは忘れないようにしてほしい。
この本の中盤で、筆者は「古きものにいまを見つける」「体と心のペースをつかむあらためて働くことの意味を問う」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 現今のベストセラーは百年もたてば消えるのが文学の冷厳なる現実で、どうせ読むなら、どの時代の人が読んでも感銘を受けるような、「古典文学」を読むべきものと思う。
- 旅の楽しみはフリーハンドをキープして、見知らぬ物を発見し、美しい物を眺め、歴史的な文物に思いを致し、おいしい物・まずい物に予備知識なく遭遇し食べてみることである。
- 腹が立っても、巡り合わせだと思い、怒りを即座に外に向けたりしないことと言い聞かせている。3日間我慢すればそういうことがあったという記憶の程度まで心の傷が癒える。
〇この本の後半で、筆者は「残すものと捨てておくもの」「人生の“店じまい”に向けてなぜ「定年」が不安なのか」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 受給した年金は、本当に働けなくなった時まで手付かずで置き、年々減少していく収入に見合った生活をしていこうと思う。縮小していく生活を粛々と受け入れていきたい。
- 人間関係も縮小するが、広く浅く付き合うよりも、本当に信頼すべき親友・仲間がせいぜい3人もいれば良いと割り切っていくことだ。その親友の究極が夫婦というのが望ましい。
- 生活を惰性で流していくのではなく、自覚的・主体的に静と動、緊張とリラックスを織り交ぜて生活する。それが交感神経と副交感神経を互いに拮抗させ、健康を保つことになる。
- 病が重くなったり、認知症になれば「個(孤)」を保つことが難しい。介護施設に入るという人生の最晩年の始末のために資産を残しておくということを考えなくてはいけない。