はじめに ~「どこまで任せられるの?」という疑問
高齢者支援のご相談を受けていると、「日常サポート契約って何ですか?」「何でもお願いできる契約なんでしょうか?」というご質問をよくいただきます。
前回のコラムでは、「高齢者の手続を誰に任せるか」という視点から、家族と専門家の役割分担について整理しました。今回はその続きとして、「具体的に何を任せられるのか」をテーマに、日常サポート契約の中身を分かりやすく整理します。

日常サポート契約とは?
「日常サポート契約」は、法律で定められた正式な名称ではありません。実務上は、「任意代理契約」「事務委任契約」などと呼ばれる契約を、分かりやすく表現した言い方です。
本人が元気で、判断能力がしっかりしているうちに、日常生活に関わる事務的な手続を信頼できる人に任せるための契約と考えるとよいでしょう。
成年後見制度のように、判断能力の低下を前提とする制度とは異なり、「今の生活を支えるための備え」という位置づけになります。

日常サポート契約でできること
日常サポート契約でよく任せられるのは、次のような場面です。
- 入院や通院、施設入居に関する事務(書類の提出、連絡窓口、日程調整など)
- 役所での手続(住民票や印鑑証明の取得、各種届出)
- 日常生活に関する契約や解約(公共料金、携帯電話、テレビショッピング・通信販売の解約・整理などなど)
ポイントは、「生活を回すための事務的な対応」が中心であることです。
家族が遠方にいる場合や、継続的な対応が難しい場合には、こうしたサポートがあるだけで安心感が大きく変わります。

できないこと・注意が必要なこと
一方で、日常サポート契約は「何でも任せられる契約」ではありません。たとえば、次のようなことは、原則として本人や親族、あるいは成年後見人でなければ対応できない場合があります。
- 医療行為そのものに関する同意
- 銀行口座の解約や多額の出金
また、実際に代理対応できるかどうかは、病院・施設・役所・金融機関ごとの運用にも左右されます。
このように、「契約があるから必ずできる」とは限らない点に注意が必要です。

大切なのは「どこまで任せるか」を具体的に決めること
日常サポート契約で最も重要なのは、任せる範囲を具体的に決めておくことです。
「必要な手続をお願いする」といった抽象的な書き方ではなく、「どの手続を」「どこまで」「どのような形で」任せるのかを整理し、契約書や委任状に落とし込むことが安心につながります。
具体的に書面化されていることで、病院や役所などの相手方も対応しやすくなります。

公正証書にしておくと安心な理由
日常サポート契約は、口頭の約束ではなく、必ず書面で残すことが大切です。さらに確実性を求める場合は、公証役場で作成する公正証書にしておくと安心です。
公正証書にすることで、次のようなメリットがあります。
- 本人が確かに合意していることが明確になる
- 重大な不備や無効を避けやすい
- 病院や施設、役所などに信用されやすい
- 原本が公証役場に保管される
日常的な手続であっても、将来を見据えた備えとして検討する価値は十分にあります。

他の制度との関係
日常サポート契約は、「今」の生活を支えるための仕組みです。
このほか、次のような制度があります。
- 任意後見契約:将来の判断能力低下に備える契約
- 死後事務委任契約:亡くなった後の手続を任せる契約
実務の現場では、これらを単独で使うよりも、組み合わせて備えるケースが多く見られます。
そうすることで、元気なうちから亡くなった後まで、切れ目のない安心につながります。

行政書士ができるサポート
日常サポート契約を検討する際、行政書士は次のような支援が可能です。
- 契約内容の整理
- 契約書や委任状の作成支援
- 将来を見据えた制度(任意後見・死後事務委任)の整理
- 公正証書作成のサポート
- 契約内容を明確にし、安心して利用できるよう助言
また、状況によっては行政書士自身がサポートに関与することも可能です。
ご親戚や知人にお願いするのが難しい場合には、専門家という選択肢もあります。

まとめ
日常サポート契約は、「何でも任せる契約」ではありません。だからこそ、できること・できないことを整理し、自分に合った形で備えることが大切です。
「まだ元気だからこそ」考えておくことが、将来の安心につながります。
行政書士ストック法務事務所は、川崎くらし安心パートナーズの一員として、あなたの不安を、安心に変えるサポートに取り組んでいます。


