本書では、定年後は、人生を楽しむ姿勢を優先させて、肩から力を抜き、年齢に逆らわない自然体の生き方を実践することが許されるはずだとしています。そして、本書には、終盤を迎えてなお、失うものより得るものが多い人生を可能とするための生き方や考え方を探っていき、会社や組織を離れ、本当の自立へ向かう40の人生のヒントについて書かれています。
筆者の佐々木常夫さんは、東京大学経済学部卒業後、東レ株式会社に入社し、さまざまな事業改革などに多忙を極める中で、育児・家事・看病をこなすために、毎日6時に退社する必要に迫られ、「最短時間」で「最大の成果」を生む独自のマネジメント理論とノウハウを編み出しました。東レ株式会社取締役、東レ経営研究所社長のほか、経団連理事、内閣府の男女共同参画会議議員、大阪大学客員教授なども歴任しました。「ワーク・ライフ・バランス」のシンボル的存在と言われていいます。
その著書には「働く君に贈る25の言葉」(PHP文庫)、「そうか、君は課長になったのか。」(WAVE出版)、「「本物の営業マン」の話をしよう」(PHPビジネス新書)、「会社で生きることを決めた君へ 」(PHPビジネス新書)、「人生の教養」(ポプラ新書)、「9割の中間管理職はもういらない」(宝島社新書)など多数あります。
この本は、次の4章で構成されています。
- 第1章 「組織を離れる」とは、こういうこと
- 第2章 人との「つながり」「つきあい」を見直す
- 第3章 穏やかに、健やかに生きるヒント
- 第4章 自由な日々を「楽しむ」作法
この本の前半で、筆者は、「「組織を離れる」とは、こういうこと」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 定年のショックと、定年前後の生活のギャップに戸惑い、立ちすくんでしまわぬよう、それ以前から、会社と別れる準備をしておく。精神的にも、経済的にも、うまく会社離れをして、定年後の世界へソフトランディングできるよう備えておくことが肝要である。
- 定年への助走期間では、それまでに自分の中に構築されてきた、ものの見方や考え方、思考法や行動原理などを定年後に向けて改めて確認し、修正を加えておく。その上で、自分の能力や特性、やりたいこと、できること、好きなことなどを再点検して、定年後の生き方の方向性を定める。
- 年は重ねても、あくなき成長への気概というか心がまえを持っている限り、人は年をとらないし、老けない。いつまでも伸びていけるし、その姿勢が充実した老後を約束もする。
- 会社の庇護や肩書きの助けなしでも成果をあげられる「スタンド・アローン」型の人間になることが大切である。その能力は、会社の内部に蓄積されたノウハウや多彩な人脈を大いに活用することで自分のものにしてしまえばいい。
- 失敗を恐れて、臆病に腕を縮こませるよりも、多少のミスや失敗は想定のもとで思い切ってやってみる。その方がずっと成功に近いし、運を引き寄せる引力も強いはずである。
- 何かをすべきかすべきでないかの選択に迷ったときには、思い切って「する」の方を選ぶ。こういう心の若さ、行為の若さが、定年を迎える実年世代にとっても大いに必要なのではないか。
- 迷ったらやる方を選ぶ、求められたら躊躇なく応じる積極的な決断が大切なのは、その第一歩が単なる一歩にとどまらないからである。その一歩をきっかけにして、そこからまた別の世界が開けたり、新しい道筋ができたりしていくことは多い。
この本の中盤で、筆者は、「人との「つながり」「つきあい」を見直す」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- 定年という人生の転換期は、人間関係が大きく変わる時期でもある。人脈や人とのつきあいが、会社を中心とした公的なものから、地域や家庭を基本とする私的なものへと移行していくときである。いわば、人とのつながりが社縁から地縁へと転換する時期である。
- 社縁から地縁へと人間関係の重心を移すときには、まず自分の住む地域に目を向けて、そのコミュニティへ積極的に溶け込む努力を惜しまないことが大切である。それが新しいつながりを生み、生きがいの種ともなっていくならこんなにいいことはない。
- 会社でのタテ社会の序列感覚は定年とともに潔く捨ててしまうことである。未練たらしく、それにしがみついているうちは、新しいつながりを築き、広げていくことはままならないと肝に銘じるべきである。
- 定年後のつながりはつかず離れずの淡白な交わりがいい。仲良くつきあいながらも、プライベートな問題に干渉しない、立ち入らない―これは老いの友情における黄金の知恵と言える。
- 定年後に家族から孤立しないためには、現役時代から、謙虚にふるまう、えらそうな態度をとらない、相手を尊敬する、人の話をよく聞く、互いを認めあう、求めるよりも与えることを多くする、自分のことは(できるだけ)自分でするという努力をしておけばいい。
- 親は自分自身の老後についても「さらり」として諦念を持たなければならない。子の方から「おやじたちの面倒を見たい」と言ってきたなら、素直に身を任せるのもいいが、それを親の側から期待すべきではない。
この本の後半で、筆者は、「穏やかに、健やかに生きるヒント」「自由な日々を「楽しむ」作法」について書いています。印象に残ったのは次のような点です。
- つつましく節度や抑制を保ち決して欲張らず、少ないもので満ち足りる考え方、生活や文化の形態。この「小欲知足」を、思い荷物を方から下ろし、様々な義務や責任から解放される定年後のライフスタイルの中軸に据えたらどうだろう。
- 現役時代にたくさん来ていた年賀状も、その多くはあなた自身ではなく、あなたの会社、あなたの肩書き宛てに寄せられていたというのでが偽らざる事実なのである。
- 本は人生の羅針盤であり、高齢者にとっては人生最良の友だちであり、最後の友人ともなり得る存在である。定年後は、数をこなして知識をたくさん得る流行型の読書よりも、対象を絞って、少数精鋭でじっくりと読みこなす不易型の読書の方がふさわしい。
- 定年後は、収入や資産に見合った身の丈サイズの暮らしを心がけること、無理や背伸びを避け、ムダやぜいたくも排した節度ある分相応の低活をすることが基本である。お金の貸し借りも原則として禁止すべきである。
- 健康は「心の若さ」に基づくもので、年齢に左右されるものではない。定年後に健康と言う最良の資産を得るためには、まず、こうした実年齢にとらわれない若い心がまえを持つことが大切になってくる。
- 老いによる変化を拒むのではなく、受け入れていく。体力が衰えたなら、衰えたなりの状態に合わせて、生活リズムを再構築していく。「変えられるものを変える勇気。変えられないものを受け入れる冷静さ。その二つを見分ける知恵。」これこそが定年後に求められる「老いの英知」かもしれない。
- 自分を強く、若く、大きく見せようなどと構えることなく、老人は老人らしく年齢相応に力を抜いて自然体で生きていこう。そんな「年代に逆らわない生き方」をすすめたい。
- 自分の力量より少しだけ上の望みを掲げて、カメの歩みでいいから、ゆっくり目標に向かって歩いていく。年をとったら、何事も極端は避けて「中庸」がいい。中庸とはすなわち自然体である。
- 「何をしてもらうか」ではなく、「何ができるか」を考える。これも高齢者の幸福にとって重要な条件である。つまり、受ける側ではなく、与える側に立つこと。人の幸せは貢献や寄与といった利他的な行為から生まれてくる。
- 定年後の遊びにおいては、現役時代の「取り戻し感」を大切にしてみるのも一つの方法かもしれない。どこかへ行くたびに、「あのとき行けなかった場所へ、やっと行けた」という満足感を覚えるという楽しみ方、遊び方も定年後にはお似合いである。
- 人の輪を大切にして、人の中にあっては明るくふるまう。その半面で、ひとりでも平気な強さを持ち、孤独を楽しんでいる。この社交性と自立心の二つを同居させることは定年後の人生の必須科目といえる。